ふとまた彼はそう云ったが、今はそんなことより急に街が見たくなった。街のどこが見たいというより、いつも見ていたあそこもここもという風に見たくなり、そして、先ず何より寿司が食べたいと思った。
「幸子はだいぶ良くなりましたよ。今夜も来たいと云ったんだけれど、また悪くなられるとね。」
 と母は矢代の妹の容態のことを云った。
「良かったですよ。どうも、あれのことが気になってね。疲れが癒ったら、僕病院へ行きますよ。」
「そうしておくれ。喜ぶわ。」
「だけど、僕、何んだか一度、滝川の家へも行きたくってね。東北地方が一番見たいんですよ。」
 と矢代は云った。母の実家の滝川家のある東北地方を見ることは、帰って彼のするべき計画の第一歩のように思われていたからだった。しかし、母とそんなことを話している間も、彼は父ひとりをそちらへ捨てているような自分の態度に気がついて、実はそうではない筈だのに、何ぜともなく父には、云うべきことも云いにくいことがさまざまにあるのだった。
 子供の洋行を誇りとしているらしい明治時代の父に、矢代は自分の思いを伝えるには、どう云えば良かろうと咄嗟に考えたが、さきから父はただ「ふむ、ふ
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