解した。誰が見ても一番疑われる器具の双眼鏡に封印し忘れた手落ちなど、手落ちとしてはあまり乱暴すぎたものだった。しかし、結局は、誰でも気がつきそうなものまで忘れた南のその頓馬《とんま》な失策が、却って逆に検査官の疑いを解いたらしかった。検査官は顔を和らげると双眼鏡まで南に返してあっけなく荷物を通してしまった。
「サンキュウ、サンキュウ。」
 相好を崩して乱された荷物をあたふたスーツに詰め込んでいる南の傍で、次ぎが矢代の番になった。彼のは異状もなくすぐ通った。その次ぎはナチスの外交官で、このときは荷物が通ったが所持金を内ポケットから見せるとき、旅券に記入のない日本の百円紙幣を二枚一緒に出して見せた。
「これは預っときます。」
 検査官は簡単に紙幣を取り上げた。これにはドイツ人も意外だったらしく、暫くぼんやりしていてから周章《あわ》てて、
「それは僕が東京へ着いてから、すぐ入用のお金です。返して下さい。」と手を差し出して云った。
「しかし、記入してありませんよ。記入のないお金はお渡し出来ない規則です。」
 検査官はもうドイツ人の顔を見ようともせず、次ぎの荷物の審査にさっさとかかりかけた。

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