切さは旅人は忘れがたいものだが、南にしても、これほどにされては、自分の持ち運んでいるフィルムの性質を知られたくはないらしかった。事実自分の意図とは反対なものを運んでいる南の心中を察すると、矢代も困っている彼の様子に同情せざるを得なかった。そうかと云って、捨子のようになっているA社のフィルムを見ては、それもまた気にかかり、引取人の現れるまでは育てたいらしくときどき退屈になると南は、円い鑵からフィルムを取り出して窓の方に透かして見ながら、
「うむ、なかなか面白い。これや、あなた、見てごらんなさい。なかなか面白いものですよ。」
と云っては矢代にも一緒に見ることをすすめた。
「オリンピックは僕も見ましたからね。競争はどうも――そのフィルムだって、満洲里まで着けば、後はそこからT社のとまた競争するんだから、もう何んでも競争だ。」
矢代はこの競争ということが何事によらず嫌いな性質だった。T社から依頼を受けたマラソンのフィルムにしても、A社との競争だと思うと愉快ではなかったが、シベリヤの間だけは無競争も同様なので、する必要のない今の期間だけでも、せめてその競り合いから脱け出していたかった。矢代の
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