いと思い頷きながら、
「あれで久慈はどういうものだか、まだパリを放れたことがないのだからな。パリを放れると損をすると思い込んでいるんだから、あの男にはスペイン行もいいでしょう。」
矢代はこう云ってから真紀子と久慈との、一見無事な情事もなかなか容易ではないと云おうとして、ふと自分たち二人も実はどうだかまだ分ったものではないのだと思った。街が郊外となり空が行手に拡って来ると、薄靄も次第に晴れて来た。矢代には空がいつもと違って恐ろしく支えのない空漠としたものに感じられた。遠く旅して来た彼の眼にいつも変らず随いて来た懐しい空だったが、今日のはいつ突き落されるか計り知れぬ、鳴りを静めた深深とした色合いに見えるのだった。
「これでもう、マロニエなんか落葉しているのがあるが、僕ら日本へ帰るころは、もう稲の穂が垂れていますよ。」
「そうね、でも、あなたあまり永くベルリンにいらっしゃらないでね。」
「もう外国にはそんなにいたくないな。よほど良い所でも、僕はやはり考えますね。」
飛行場のバスはどこのでも、客たちの間に一種鈍重な沈黙が圧しているものだが、これから空を飛ぶのだという、人間の習性をかなぐり捨
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