剣の警官部隊だけ、血のところどころに流れている雨の中に塊ったまま動かなかった。
「いや、どうも、殴られた殴られた。痛いやまだ。」
 塩野は椅子に落ちついてからも剽軽に頭の横を押してみた。
「しかし、君はなかなか豪いよ。あんなときでもシャッタを切っていたからね。」
 と矢代は事実塩野の勇敢さに感服して云った。
「一ちょらの写真機壊されそうになったが、このときだと思って撮ったんだよ。何が撮れてるか今夜は見ものだぞ。まったく偶然に挟みうちに会わされたんだからな。逃げようにも逃げられないんだ。しかし、あの鉄甲には感心したね。ぴたぴたっと締めよって来た鮮かさは見上げたものだよ。動けないんだ。」
 思い出すと蘇って来るらしい興奮に塩野の顔は赤く染まり、口から泡が飛び出した。
「左翼に一人強い人がいたわ。無茶苦茶に暴れてるの。」
 真紀子のそう云うのに塩野は、
「うむ、いたいた。」
 と頷いた。
「でも、真っ先に飛び出ていった女の人ね。あの方にもあたしびっくりしたわ。あんな人やはり日本にいませんわね。あたし、見ていてはらはらした。」
 千鶴子はそのときもそうして見ていたらしく両手を胸の上に縮め、表情
前へ 次へ
全1170ページ中512ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング