としていた。
 矢代たちがトリオンフの椅子を占めてから間もなく、バスティユの方から戻って来た塩野や中田たちと落ち合った。
「あっちはもう赤旗ばかりだが、こっちは頑張っとるな。」
 と塩野の元気な声で云うのに、久慈は、
「この調子だと、左翼はもう来ないかもしれないね。」
 と云って凱旋門の方にカメラを向けた。
 いや、来るのが分って待ち構えているからこそ、左翼はやって来るのだと塩野の意見はまた逆だった。彼の話によれば、バスティユでは左翼以外のものを広場へ入れなかったが、カルトを見せるとすぐ入れた代りに、日本もわれわれと同じインターナショナルだからと肩を叩かれ、胸に赤い三角の旗をピンで差されたという。右翼との衝突も少しはあったらしかったが、苦心の割りに写真の収穫はあまりなかったとのことだった。
 雨は降りかかって来たかと思うとまたすぐ晴れた。マルセエーズの合唱が街路樹の下からつづいて起って来た。警官はその群衆の方へ行ってはまたマントを振りたて制止につとめた。
「国歌は唱ってはならぬとなると、困ったなア。これが日本だったら、君が代も唱っちゃいかんということだ。こうなられちゃ、これやたまらん。
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