かけそういう久慈の籐椅子の背が、もうすでにぎしぎしとよく静かな中で響いた。
「婦人連は遅いね。塩野君さっきまでここに待っていてくれたんだが、もう皆いったよ。誰も彼も今日は血眼だ。」
「そうだろう。」
と久慈は云っただけでコーヒーと鮭を※[#「口+云」、第3水準1−14−87]咐けた。いつもなら何んとか矢代に突っかかって来る彼だったが、今日は何も云わず、黙って額を揉みほごすと軽く横に振ってみていた。
「衝突はあったのかね。」
「さア、どうだか。」
矢代はふと椅子の下を走り廻っている一疋の鼠を見つけた。隙間のない石ばかり続いて出来たこんな所へ出て来ては、逃げるとすると、鼠も放射線を伝って郊外まで一里あまり走らねばなるまいと思った。そこへコーヒーと鮭とパンが出た。
「いやに静かだね。気味が悪いや。」
とまた久慈はあたりを見廻して云った。波頭のような二百ばかりの空虚の椅子の犇めき詰っている中にぼつりと浸っている二人だった。コーヒーだけが湯気を静かに立てていた。
「千鶴子さん明日帰るとすると、今夜一つ送別会をしなきやならないが、どこでしょう。ボアの湖へ行くか。それともモンマルトルの山の上が
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