、久慈の車は半廻転ほど横になった。すると、そこをすかさずまた矢代の車が一撃した。二度の衝撃で久慈はS字形に曲ったまま、思わぬ車の横腹へ突き衝ってしまった。そこへまた他のが蹌踉けて来て首を突っ込む。三つが捻じれているところへ意地悪いのが故意に首を入れたので、たちまち楔に裂かれた三つが意外な開きで散っていった。
幾らか自由になったとき久慈は矢代の方を見てみると、彼も反対の隅へ押し籠められていて、出ようとする度びに、後から後から来るのに突き衝てられて困っていた。
ところが、気をつけるともなく久慈は気附いたことだったが、千鶴子に突進してゆく車の多くの婦人は、運転している自分の男のそのときの心を忖度する気色でむっと衝る時ごとに怒った表情に変った。そして、誰かから自分が突撃を受けると遽に笑顔の悲鳴となるのだった。しかし、そう思えば、たしかに久慈も矢代へ突きかかってゆくときには、千鶴子に点数を入れたい気持ちが強いのを思い出した。殊に千鶴子への態勢を構えるとき、ぴたりと矢代に身体をよせかける千鶴子のなまめかしさが、妙に敵意の残酷さを久慈に抱かせ、彼は廻すハンドルに手心も加えず突き放すのだった。
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