と思って出て来たのにもう幾月になるかしら。ロンドンの兄からしきりに手紙が来るの。早く来なければ置いてきぼりにして帰ってしまうぞって、そんなに云って来てるんですのよ。あたし、もう少しいたいのだけれど。」
千鶴子は荷物を取り上げ、詰って来た客に椅子をあけて真紀子に向い、
「あなたはまだお帰りにはなれないでしょうね。なかなか?」
軽く訊ねたつもりらしいのも、それがそのままとならず波紋を強く真紀子に与えたらしかった。真紀子は、「ええ。」と言葉を濁して暫く黙っていてから、
「でも、帰ろうと思えば、いつでもあたしはいいんですのよ。別にこれって邪魔は、もうないんですの。」
むしろ千鶴子によりも久慈に答えるらしい含みでそんなに真紀子の云うのを、久慈はにやにや笑いながら聞いていた。
女人のことは君に任すと云いたげな矢代は、昨夜の真紀子と久慈との出来事も知っているのか知らぬのか、さも気附かぬらしい様子で煙草を吹かせていた。しかし、久慈は、矢代こそ千鶴子の帰りをどんな心で見送っているものかと一寸推しはかってみたものの、頑なほど不思議と意志を見せぬ矢代のこととて、外から想像したほどの変化もないにちがい
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