館をめぐった緑の濃い樹の蔭から朝の噴水が正しい姿で光っていた。まだ日光に暖まりかねた大理石の石階を踏みつつ、久慈はこれからセザンヌを見るのだと思うと、真新しいカラアを開くような豊かな喜びを感じて第一室に立った。
あまり広くもない三室を連ねたばかりの会場に人は相当這入っていたが、それもうるさいほどではなかった。見渡したところ皆誰も帽子をとり声も立てず、お詣りのように静静としているのが久慈には先ず気持ちが良かった。絵も百四十点もあった。彼は一つずつ見て廻らず、中央に立ってざっと一度見廻してから、惜しむように最初にもどって虱潰しに覗き始めた。見てゆくうちに、どの絵も初期のセザンヌの正確な筆力の延長が狂いを起さず、自ら枝葉の延び繁った写実の深まりゆくさまを壁面に順次に現しているので、その前に立った黒い服装の真紀子の姿まで、きりりと締って無駄のない美しさには見えるのだった。
「一番普通のことをセザンヌはやったんだな。それが皆には出来なかったんだから、おかしなものだ。」
と久慈は途中で真紀子に呟くように云った。そう云いながらも彼は、自分もごくありふれた日常の普通のことをそのまま普通に考えること
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