つくと、ああ、まだこのままには済まぬぞと思い、また女たちを踏み下したまま前方をきっと高い眉毛で見詰めているベルレーヌの心境が、さらに深く内奥で拡がりわたって来るのだった。
その日は真紀子は一日久慈に柔順で優しいばかりではなかった。昨夜とはうって変った淑やかさで化粧も絶えず気をつけ、彼を見上げる眼も細かい心遣いに生き生きと変化し、些細な買物にも久慈のままに随った。食事場も行きつけの店の一二は開店していたので昨日のようには誰も困らず、夕食のときは矢代や千鶴子と一緒に四人はドームで不便なくすますことが出来た。
久慈はもうこの夜は真紀子と別れていることの出来ぬ、最後の夜になるだろうと覚悟を決めていたので、夕食のコーヒーになったとき一同に、
「どうだね、今夜はこれからみなでタバランへ行こうか。」
と誘ってみた。タバランというのはパリでは一頭地を抜いて優秀な踊場を兼ねたレビュー館である。みなの者らはすぐ賛成したが、まだそれまでには時間が少し早かった。
久慈はこの夜はあまりいつものように物を言わなかった。次ぎ次ぎに信じていたものが頭の中で崩れてゆく拠り所のない元気のなさで、食事をしている
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