』というのが消してあった。久慈はこれらの句を見ながらも、そのうち真紀子が昨夜逃げ出していった自分を責めるだろうとひそかに待っていたが、どういうものか真紀子は昨日のことには一切触れる様子は見えなかった。どちらもいうべきことのそれぞれ苦心を持っているときに、何んの前ぶれもなく俳句を持ち出した真紀子の機智には、これを意識して謀んだ彼女の術策かと久慈は暫く疑いもしたが、それにしても出来ている句には心の乱れや汚さがないのを感じ、描かれる明るい句境の気持ちのままほッとべルレーヌの像を仰ぐのだった。三人の裸形の女が下から狂わしげに身を搓じらせて仰いでいる真上に、ぬっと半身を浮かべたベルレーヌの烱烱とした眼光が、何物をかうち貫き、パンテオンの尖塔をはるかに見詰めて立っている。
やはりこの泥酔ばかりしていた詩人も悩んだものは女人のことではなかったのだ。あれが男性の理想を見据えている眼だと久慈は思い、昨夜からの自分もそれに似ている困却の様子を何んと真紀子に報らせたものかと考えた。
「円木の揺れやむを見て青き踏む――その方がいいかな。」
とまた久慈は呟くように云った。
「私もこの方がいいんじゃないかと思
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