純潔さがこのように美しく見えて来たのか、考えれば不思議だった。灯の消えている千鶴子の部屋の窓が五階の上に見え始めると、胸がそわそわして来て胸を一寸揺ってみた。
「どうも変だ。こんな筈はないんだが。」
 とこう彼は呟きながら下から上を仰ぎつづけた。これや恋愛じゃないか、馬鹿馬鹿しいとまた思うと、引き返そうとしたが、丁度良い具合に手ごろなベンチが広場に見附かったのでそこへ腰を降ろして煙草を吸った。窓を眺めながらも、久慈は、完全に慕い合っている矢代と千鶴子の横からこうして自分の羨望している図を思い描き、ひとり手出しの出来ぬ悔恨に淋しくなって来るのだった。
「どうもあ奴たちの恋愛は立派だ。これを壊してなるものか。」
 とまた祭壇を拝むように高い窓を見詰めつづけ、いまいましい感情の鎮まるまで久慈はそこから動かなかったが、一つは、後へ引き返せば自分のホテルへは戻らず前を通りぬけて、また虎穴の真紀子のホテルへ舞い戻りそうな危険を感じたからだった。事実、深夜のベンチに坐っているこのおかしな姿も、半ばはも早や真紀子から逃れ切れない予感のためでもあり、今や沈もうとしている身にとっての一握の藁が千鶴子の窓だ
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