の寺院について議論をしたらしい塩野は、異議ありそうに笑いながら久慈に云った。
「東野さんの説は新説だから、よく覚えときなさいよ。僕と東野さんは春のぽかぽかするころ、ここの北塔の一番上の鉛の敷いてある部屋の上で、よく寝転んで日向ぼっこしたんですよ。あのころは良かったなア。下のお堂から、弥撒のパイプオルガンが静かに響いて来るし、聖歌を枕にしてるみたいで、うっとりいい気持ちに眠くなるし、セーヌ河が真下で木の芽を吹いているしね。それやまったく、ここの塔の屋根の上は、パリ第一等の眺めだ。」
「だって、ここは国宝建築物だから撮影は禁止だろ。」
久慈は大胆な塩野にも驚いたが、また彼の苦心のほども察しられて訊ねた。
「それや参観人の通れるところだけなら、三フラン出せば撮れるんだ。それでも大部分は禁止区だから困ったのだよ。門番の婆さんに、このお寺はパリの歴史そのものみたいなものだから、各国へこの燦然たる文化の象徴物を紹介しないというのは、けしからんと云ってね、おだてたりすかしたりの最中だ。また事実そうだよ。これだけの立派なものを、隠して置く手はないからな。これで門番の婆さんと親しくなるのに、僕は来る度
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