なく店の前から立ち去った。


 ルクサンブールの公園の中を突きぬけて行くうちにしきりに樹の葉が散って来た。大輪の薔薇を揺っている雀の群れのうえ高く鳶が円を描いていた。並んだ黄色い乳母車から放れた赤ん坊がよちよちした足で雀の後を追っている。久慈は東野との争いもいつの間にか忘れ肩を並べて歩いていた。ゆるやかな芝生のカーブを背にしたベンチで、まだ少年の名残りをとめた青年が美しい女学生の肩を抱き、何事かしきりに弁明をしていた。女学生は不機嫌な顔で足もとの鳩をじっと見詰めたまま返事さえしないのを、しつこく青年は繰り返して娘の心を牽きつけるのに余念がなかった。一見して久慈は、嘘を真事らしく告白している男の表情を見てとった。青年はさもくたびれたという様子でふと横を見て一服してから、また急に思い出した風にとぼけた顔でかき口説き始めた。暫くすると、まんまと娘は男の言葉に乗って身をよせかけ、どちらからともなく二人は一つにより塊った。
「ああ、不幸が一つ増したぞ。」
 久慈は日本語でそう云いながらその前を通りすぎた。
「あれか。」
 塩野は振り返ってベンチを見た。
「なぜあの嘘が分らんのかね。それともあれ
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