あなたはいいでしょう。あたしね、高さんと今夜これから踊りに行くお約束したのよ。丁度時間もこれからだといいんですもの。」
自分に真紀子の行動を止める権利はないと矢代は思ったが、それでも一緒に来たからは離れて帰るのは気持ちが悪かった。殊に良人から離別して来た養子娘の気ままな真紀子を、高と一緒に踊場へ突き放す危さは、千鶴子とピエールとの危さの程度ではなかった。九分が九分まで先ず中国人の巧みな術中に陥ち入る危険があると見なければならぬ。
「駄目だな、行っちゃ。」
「どうして駄目なの。」
「どうしてって、何んとなく駄目だ。」
「でも、もうお約束したんですもの。」
「じゃ、僕も行こう。」と矢代は云って時計を見た。もう十二時近かった。丁度その時舞台では幕が上り、胃病のマルグリットが明け方の白白した部屋の寝台で眠っていた。真紀子は黙って舞台を見ていたが、
「こんなのもう分ってるわ。あたし、じゃ、行って来てよ。」
と云って立ち上った。みすみす危いと分っている享楽の中へ、自分のために真紀子を突き落すことは矢代は耐え難かった。彼は真紀子の手首を持って引き据えるように椅子へ腰を降ろさせると、
「やめなさい
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