屋の中を眺めていたが、
「真紀子さんどうなすったの?」とまた訊ねた。
「高さんて船の中にいた中国人あったでしょう。ダンスの上手な。――あの人と下で会ったまま戻って来ないんですよ。」
「そう。あたしに怒ってらしって?」
「いや、僕にだ。」
「あたしも怒られるかしらと思ったんだけれど、でもね。」
「まア、少し間違えた。」
矢代はそう云うと、滅多に出来そうもないと思っていた千鶴子の片腕を歩く時のように自分の腕の中へ巻き込んだ。千鶴子は後ろのドアの方を向いてから顔を矢代の肩へ靠らせたが、また身を起すと足を組み替え一層重くもたれ直したので、首飾の青石がかすかに鳴った。二人は暫くそうしたまま舞台を見ていた。悩むマルグリットの衣裳のうねりにつれて、無数の宝石が全身の上で光りを絶えずきらきらと変えていた。
矢代はフリーゼをかけた千鶴子の髪を首筋で受けとめながら、自分にも分らぬ深部から鳴り揺れて来る楽しさを感じた。舞台の進行は分っているが、自分らの進行だけは全く未だ分らぬこれからの楽しさばかりだと矢代は思い、ますます後へは退けない責任を感じて千鶴子の重みを支えつづけているのだった。音楽がまたしきりに
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