ある。
「はだかん坊の中で議論するとは見ものだろうな。」
と矢代は一層面白がって笑った。
「それはなかなか見られない風景でしたよ。ああいう議論というものは僕は見始めだな。周囲はみな一糸もまとわぬ薔薇色の波の律動なんだよ。その中で島みたいにあの二人の洋服だけが固まってじっとしてるんだからな。それも、政論と思想問題ばかりだ。」
「じゃ、夜が明けたって倦きなかったでしょう。」
「倦きるどころじゃない。有史以来世界にこんな議論はあっただろうかと思って、恍惚として僕は夜を明した。幸い一人の方は明日帰るから良いものの、これでもう一週間もいれば二人は死んじまうね。」
「そいつは日本精神だなア。」
三人は笑いながら二人の方を見たとき、パリ党の方は固めた右の拳の角で卓を叩きつつ、フランスには昔から地下に隠してある金塊の額は計り知れぬという説明を縷縷として述べていた。どちらも論理そのものの正否よりも、ただ負けたくない感情だけが論理を動かしているのだった。したがって議論が議論ではなく、も早や恋いこがれている感情だけなのである。矢代も久慈との毎度の角突き合いもあのようなものだったと思い、まだこれは俺は駄目
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