ない不動の秩序の古古として潜んでいるのが感じられると、たちまち彼は取り出したマッチも仕舞い込み、その強い秩序を支えている原型の部分を分析研究してみたくもなって来るのである。
しかし、何んといろいろな精神の破片《かけら》を自分は袋へ入れて来たものだろう。これから日本へ帰ってゆっくり一つ一つずつ検べるのだ。――
こう思うと矢代も胸中の袋の底に手をあててそっとその重さを計ってみた。かつては逆さに渦巻の中へ頭を倒して巻き込まれているような自分だったが、チロルの山中で氷河の断層を渡ってからは、ヨーロッパで拾い集めたその破片を袋ごと投げ捨てて来た筈であったのに、パリへ戻るとまた袋は幽霊のような何物かで満ち始めているのだった。
すると、そのとき、白い飛沫を煙幕のように地上一面に立てた雨の中を、肩をつぼめるようにして千鶴子がこちらへ歩いて来た。
「ここ、ここ。」
と矢代は手を上げて千鶴子を呼んだ。千鶴子はほッと横降りの雨の中で笑うと小走りに馳けて来て矢代の前で云った。
「おおひどい雨。あのう、一寸お願いがあったの。もっと中へ這入りましょうよ。」
雨気で曇った窓ガラスの傍の卓に向い、千鶴子は雨
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