てゆく。急に襲って来た夕立のこととてもう熄むだろうと思い、矢代はカフェーの入口の所で待っていた。二三日前から行方の分らぬ久慈に度び度び電話をかけてみても要を得ず、真紀子に訊ねても久慈とはケエドルセイで別れたままだとの答えである。無論、千鶴子も誰も知らなかった。この二三日、久慈に突きあたりすぎた自分を矢代は跳ね上る雨脚を眺めながら後悔した。ひっ附いていると突き合うくせに放れると心配になる久慈の善良な明るさが、だんだん自分のために湿ってゆく懼れも矢代は考え、どこへ流れてゆくか計られぬ彼の身を再び手もと近くに呼び戻したくなるのだった。
 あまり客のいない室で静かに自分の国の新聞を読んでいる外人たちの中で、二人の日本人だけがしきりにベルリンとパリについて激論していた。一人はベルリン党と見え、ドイツの団結力と綜合力とが、パリの自由性と分析力よりはるかに勝って次の時代を進めてゆくという主張に対し、パリ党の方は、
「このパリの自由さ、このパリ人の平和への人間愛。」
 という風な感激した言葉で反抗しているのも、矢代は日本ではなかなか見られぬ風景だと思った。しかし、日本でもこの二つの思想派は絶えず捻じ合
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