しかし、この前後から今まで音無しかった三島の顔は、何んとなく生き生きとして来て笑う声も一段と高かった。船中でも猫のように静かで誰よりも遠慮深く謙遜だった三島であるが、一と度びアルコールに触れると船中一番勇敢に溌剌となって、外人の婦人の誰彼なく肩を叩き廻り、靴まで脱がせて喜ばせたことがあった。
「自分の青春をパリで送ったものは、極楽へいった男だ。わたしは遅すぎてパリへ来た。いまいましいな。」
こういう沖に、子供を一人残したまま妻を死なした独身の三島は、
「そうだそうだ。」と相槌打って身体を始終もぞもぞと動かした。
「これで日本の青年たちは、どんなにパリをあこがれているかも知れませんぜ。それを皆さんここまで来て、何をくよくよしてるのですか。僕は君らを見てると、まるで坊主を見てるように思えますな。僕がもし諸君だったら、あるだけの金をここで使うてしまう。ここでケチをする奴は、そ奴は一番阿呆な人間じゃ。」
割れかかった石榴《ざくろ》に石を加えたように沖の言葉は久慈の心中へどしりと重みのある実を落した。すると、突然、矢代は遮るように、
「それは沖さんの感傷だな。ここは全く監獄だ。僕らはみな金を
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