様がない。」
 聾者が急に聞え出したように噴出して出る想念の統制がつかぬのであろうか。沖の云うことには全く連絡がもうなかった。
「三島さん、何かお土産ありました。」と久慈は黙って沈み込んでいる三島に訊ねた。
「いえ、何もありません。帰ったら叱られそうで考えてるところです。」
 多額の金銭の支給を受けて視察を命ぜられ、何一つ新しい発見もせず明日帰ろうという機械技師の苦衷は、自分の想像外の気重さだろうと久慈は思った。
「一つもないって、じゃ、やはり日本はそれだけ進んでしまったのですか。」
「そうですね。」と三島は、日本がそれだけ進んだのか或いは自分の鈍感さの結果だったかはまだ疑問の風で笑顔一つもしなかったが、「一度ある国でこんなことがありました。僕が工場を視察していましたら、面白い形の機械を一つ見附けましたので、珍しそうに眺めていますと、向うから写真を撮るなら撮って下さいと云うのです。どこでも視察は許しても写真だけは許しませんから、親切なところもあるものだと感激して、それではどうぞと幾度もお礼を云って撮らせてもらいましたが、宿へ帰って現像をして見ましたら一枚も写っておりませんでした。」

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