えば思い出した。チェコの青年だったが、マルセーユで海を見て、生れて初めて自分は海を見たんだが、海ってこんなに大きなものかねえって、首をひねって、さも感慨に耐えぬという顔をしてたっけ。」
矢代はあたりの外人たちの顔の中から、海のない国の人間を探し出そうとする風で、
「ここにいる外人たち、みなパリへみいらを採りに来て、みいら採り皆みいらになって本国へ帰っていくのだからな。気の毒なものだ。」
黙っている久慈の顔にさっと紅がさすと、毒毒しい皮肉な微笑が一瞬唇を慄わせたが、それもすぐ沈んで彼は黙りつづけた。まだ矢代に怒るものが自分にはあるのだと思う気持ちを久慈は考えてみたのである。たしかに自分はパリのみいらにいつの間にかなりかかっている。しかし、矢代は何んだ。日本のみいらになってるじゃないか。――
久慈は足の下から眼に見えぬ煙のようなものが立ち昇って来るのを感じた。自分を今まで支えていたと思っていた知識の一切が、形をなさぬ不安な色どりのまま、腰の浮き浮きする不快さが加わっていくばかりだった。
すると、そこへ李と話していたドイツの青年が立って来て矢代に紙片をさし出し、
「これは何んと日本語
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