)とこんなにテラスの前で叫びながら過ぎ去った。日日変らずに起っているこのようなことも、今日は云い合したような眼まぐるしい渦巻きを久慈の胸中に呼び醒した。
「今夜は支那飯店へ乗り込んで見よう。どういう気持ちでいるものか一つ見よう。」
とこう久慈は考えると、出来るなら李とも話して彼らの意見を訊いてみたいと思った。しかし、それにしても、何んと考えることの多過ぎる時代になって来たものだろう。それにも拘らず自分はまだ何も知らぬ。このパリ一つでさえが、眼に触れるもののすべての面に底知れぬ伝統の深さが連なりわたって静まっている。それも必死に苦しんだ人間の脳の襞が、法則を積み重ねた頁岩のように層層として視線のゆく所にあった。過去を知ることが現在を知ることにちがいないなら、およそ自分は現在さえも知らぬのだ。それなら、ここの未来はどんなにして知ることが出来るだろう。――
しかし、このように一歩たじたじと謙遜になりかかると、久慈はいちいちこのヨーロッパに反抗するような矢代の興奮の仕方もよく分った。それにつれて、所詮、日本人の生える土地はここにはないと、だんだん東野に教えられたままに自分の考えも流れ落ちて
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