ニエの並木が、広場の左方の建物の間に青葉を揃えて自然の色を見せている。岩石の峡谷の底に湛えられた水を見る思いで、久慈はその樹の流れを見ていると、ふと前に見たトラックの車体の重力が凹んだ一輪のタイヤに向って傾いた風景を思い出した。張力の一番薄弱な部分に戦争が起るという戦争の原理が事実なら、あるいは中国で遠からず戦争が起るだろう。
「あたし、今夜塩野さんに訊ねとくわ。あの方外務省のお仕事してらっしゃるから、一番そんなことよく御存知だと思うの。去年だったかしら、ユーゴスラビアの皇帝がマルセーユで暗殺なされた事があったでしょう。あのときも大使館で書記官が調べ物をしてたんですって、そうしたところが、そこへ電話がかかって来たものだから、いきなり調べ物の大きな書類を床の上へ叩きつけて、いよいよヨーロッパ大戦だ。もうこんな物なんかいらんッ、と呶鳴《どな》ったんですって。何んかそれで皆さん大笑いしてらしたことあってよ。」
「今日もこれでだいぶ書類を叩きつけた者がいるだろうな。」
 と久慈は云って、自分も確に周章者のその一人だったとひそかに苦笑をもらすのだった。すると、戦争が起ったということなど全く嘘のよ
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