ラスの椅子に腰かけると買った新聞を開けてみた。すると、「あッ。」とかすかに云って、彼は紙面に首を突っ込んだまま一心に新聞のトップを読み始めた。そこには大きく、「日華の戦争起る。」と題して一面に書かれていた。「蒙古と広東で日華戦争が起ってるんだが、大げさに書いてあるにしても、こんなに新聞のトップ一面ということは今までになかった。」
久慈はまた別のを見ると、その新聞にも日華戦争と題してトップを大きく占めていた。二人は頒けた新聞を黙って読んだ。今までとて日本と中国の危機を報じた見出しが毎日のようにあっても、いつも片隅の事件として小さな取扱いを受けていた。虚報や臆測の多い記事に馴れているとはいえ、二つの新聞の主調色をなして片隅から競りのぼって来ているこの紙上の事件は、事実の誇張としても誇張せられるだけの何事かあるに相違ない。
「しかし、これはこっちのストライキを鎮める手段か、それとも本当かまだ怪しいね。明日あたり分るだろう。」
と久慈は云った。戦争が起ればすぐ帰らねばならぬ。帰って何をするか分らぬながらも、帰らねばならぬことだけは確かなことだった。ルクサンブールの公園から続いて来ているマロ
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