自分が早く帰れと矢代に手紙を出したのを久慈は思い出したが、まさか手紙のままそんなに早くなろうとは思わなかっただけに、久慈とて千鶴子と矢代の早い帰りが先日からの疑問だった。
「でも面白かったわ。チロルはあたし忘れられない。ほんとにいい所よ。」
千鶴子は前の建築学校の屋根をうっとりとした眼で見ているうちに、
「あら、あんなとこで日向ぼっこしてるわ。」
と急に面白そうに笑った。
「フランスは田舎のどこへ行っても雑草というのがないからな。屋根の上へ雑草を植えてそこを野原にしょうという趣向なんだ。これだけ日本と違うんだから、どうも僕らは追っつけたものじゃない。」
久慈は洋服を着替えてしまうと寝台に腰かけ、さて今日はこれからどこへ行こうかと考えた。
「へんな国ね、フランスって。」
「へんなことはないさ。終いにはどこだってこうなるんだから、まア登り詰めた超現実主義はこういうものだと思えば、何もかも面白い。矢代はあれは、面白さを理解しようとしないんだからな。あれもまたどうしてあんなに、殺風景な男になっちまったものだろう。」
「そうかしら。」
千鶴子は不平げに低く云ってまたぼんやりと屋根の上
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