どこへ行っても僕たちは自然に還れそうもなくなったよ。乗せられてばかりだ。どうです、東野さん、まだあなたは俳句を考えているんですか。」
 と久慈は浮き浮きしながら東野の顔を覗き込んだ。東野はイタリア人の腕を握ってみて、
「この婦人はね、僕にどうしてそんなに淋しそうな顔をしてるのかと訊ねるんだが、そんなにまだ僕は淋しそうかな。」と訊ね返した。
「うまい、このシャンパン。」と矢代はひとりコップを上げていた。
「しかし、こんな婦人から淋しそうだと云われると、どうも妙な気がするね。千年も前からつづいている電話の線が尻っぽにくっついていて、そこから話が出て来る電話を聞いてるようなものだ。」と東野は云った。
「おい、君は電話だそうだよ。はははは、電話と一つ踊ろう。」
 と久慈はもうよほど酔の廻った体でイタリア人の腕を吊り上げた。矢代も西インドをつれて踊った。そこへ花売が薔薇を持って来ると、傍にいたフランス人の踊子がそれを買っても良いかと東野に訊ねた。薔薇を見もせず東野は首を一つ動かした。すると、日本でなら二十銭の小さな薔薇の値段が三十円だった。三十円が五十円であろうとバンドはすでに東野の頭をもいつの
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