るのだ。」
 東野はすぐ頂上に聳えて来たサクレクール寺院の尖塔を眺めて云った。頂上へ近づくに随いぼろぼろに朽ちかけた建物が、海老茶や緑の油で痛めた色に滲んで来る。史跡保存で改築を許されぬ一角であるだけに、パリの冠った古帽子のこの中には何ものが棲んでいるのか分り難い。夜毎に軽機関銃で撃ち合いを始めるというのもこのあたりであろうと、久慈は光りの洩れる窓の見える度びにそっと中を覗いてみた。
 戸口にカフェーとだけ書いてある小さな一軒のドアの、眼の届くあたりに一つ小窓があった。久慈はそこからふと覗くと、中はパリでほとんど見られぬ女給ばかりのカフェーだった。
「ここには女給がいるよ。稀らしいね。一寸這入ろう。咽喉が渇いた。」
 久慈は相談もなく一人肩でドアを押し開けて這入っていった。矢代と東野も身を横にするような狭い入口から後につづくと、ぎしぎし鳴る椅子に凭れた。薄暗い狭い部屋の空気は濁った汗の匂いで鼻を打った。
「これや汚いね。出ようや。」
 矢代がそう云って立ちかけようとしたとき、花売娘のような様子の十人ばかりの女給の中、若い三人がいきなり矢代にしなだれかかって来た。
「あら、もう帰るの。い
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