った。
地下鉄の前では一人の青年が沢山のパンフレットを胸にかかえ、「これを買え、ここにはパリのブルジョア二百五十家の住所と家族が皆書いてある。いざ事が起ればすぐさまこ奴らを叩き潰せ。」と叫びながら売っていた。
「日本のブルジョアというのが、ここじゃ二百五十もあるんだからな。そこへいくと日本はたった二つだ。たった二つならあんまり日本は貧乏すぎて、資本主義などと云えたものじゃない。」
「そんなら、まだ増やすのか。」と久慈はまた矢代を振り返った。
「そうだ。せめて百ぐらいにしないとここの文化には対抗出来ん。日本政府の一年の予算金額と、パリ市一年の予算額と同じじゃないか。これで資本主義がどうのこうのと云ったところで、ぶち壊す資本主義がどこにあるというのだ。日本は奈良朝時代から円心主義ばかりで来た国だ。その資本主義のない国で、左翼の論理を振り廻したところで、結果は弟が親や兄貴を叩き殺すだけになって来る。そんなことが、日本人に出来るわけのものじゃないよ。」
「日本が円心主義で来たとは、それやどこから出て来た意見かね。」
と久慈は炭酸ガスのむッと襲うメトロの入口を降りながら矢代に訊ねた。
「そん
前へ
次へ
全1170ページ中202ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング