ーイが去ると東野は笑いながら、どういうものか、
「何ぜ饂飩《うどん》にしたのです?」と訊ねた。
「僕はフロマージュ附きの饂飩は好きでね。もう暫く食べないんですよ。」
「じゃ、鰈は嫌いじゃないんだな。」
「嫌いじゃない。鰈の薄味は好きですよ。」
「じゃ、まア好きとしときなさい。つまりそれだよ。」
と東野は云って煙草に火を点け、敵をゆるゆる料理するように遠方から締めて来た。東野よりずっと若い久慈は、論敵の構想力の廻転が妙な風に食い物から来たのを感じると、いよいよこれは敵を誤ったと悟り始めた。
「僕はこのごろ人を見ると、ひっかかりたくって仕様がないんだが、あなたも少し神経衰弱じゃないんですか。云うことがどうも変だ。」
「何が変だ。君は鰈か饂飩かと考えて、饂飩にしただろう。まア、そんなことはどっちだって良いようなものの、ひとつ饂飩も鰈も二つとも食ってみたら、どうですか。饂飩の栄養価と鰈の栄養価とを分析して食わなくちゃ、腹の足しにならぬと君は云うのでしょう。しかし、そんなことを考えて食っていちゃ、せっかくの美味さも不味くなって、食った甲斐がないと考える頭もあるわけだ。」
ははアそれが東野の云
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