う概念が成り立たぬと思っていられる風だが、僕はそんなのを、いつかあなたに云ったように、簡便主義の知識だと思っているんですよ。簡便主義でいくなら何もそう苦しまなくたって、簡単に人の教えた方へいっちまえば良いのです。左とか右とかそんなことは問題じゃない。」
「ふむ。」
 と久慈は一応考え込んだ様子だった。しかし、彼は、いよいよ東野は有無を云わせず押しよせて来ているこの現実の思想から、逃げ歩いてばかりいる敗北主義の男だと思っていくばかりだった。
「そうすると、あなたは何んですか、こんなに人間が苦心をして造った、いわばまア知性の体系というようなものまで無視してらっしゃるんですな。論理をつまり無用の長物だと思ってらっしゃるんですな。」
 とふと口を議論に辷らせたら最後、後へ戻せぬ論理ばかりの世界にいるようなパリでの一時期とて、東野は一寸苦苦しい顔をしたが、丁度そのときボーイが二人の傍へ廻って来た。東野は鰈《かれい》と鳥とを註文すると、さア、いよいよ美味くなくなるぞ、と云うようにメニューを投げ出して、
「あなたは?」と久慈に訊ねた。
「僕もそれで結構、いや、一寸鰈はいやだな。スパゲッティ。」
 ボ
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