見つづけているうちに、山山の肌は深海を覗くような暈《めまい》を感じさせる。千鶴子は装飾窓にかかっている土地製のチロル帽を欲しがって店店を廻った。
「これどう。あたしに」
 おから型の縁を縄のように縒ったリボンのチロル帽は、都会の婦人に喜ばれる風だったが、それも旅の愁いの現れに似ていた。この街には土地の者はあまり見えず、滞在客にイギリスやドイツから来る旅人が多いらしい。装飾窓の品品も写真機とか山岳地の木彫の玩具とか、民芸風のリボン、帽子などが多かった。絵葉書の絵にも氷河を後ろに旅人と別れを惜しむ土地の娘の悲しさがあり、遠い異国の方へ流れる雨の行方を見つづける人の姿絵なども、矢代には旅の感傷となって生きて来た。
「ほんとに、ここはあんまり静かで、耳が痛くなるようね。」
 靴の音の響き返る鋪道を歩きながらも、建物の間からふと見える氷河の根を見て千鶴子は立ち停った。
「東野さんもいらっしゃれば、きっとまたここで俳句をお作りになることよ。ブロウニュの湖水では、面白うござんしたわね。」
 矢代はいちいち軽く頷きつつ公園の方へ歩いた。街の端れにある公園は矢代の見て来たどこの公園よりも美しかった。地の
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