ていると、見れば見るほど涙がとめどなく流れ出て来た。
「いやね、どうなすったの。」
 と千鶴子も矢代の涙を見たものと見え、そう訊ねた。
「何んでもないですよ、ここはもう、人を愛するなどということは出来ないとこだと、分って来ましたね。」
「どうして?」
 千鶴子は一瞬眼を光らせて矢代を見た。
「愛じゃもうここは運転しない。技術ばかりなんだ。それももう技術まで終りになって来たのだなア。」
「じゃ、何があるの。」
「何もない。」
 千鶴子にはもう矢代の気持ちが全く分らなくなったらしい驚きの表情で黙った。
「しかし、僕はパリがこのごろだんだん好きになって来たのは、ここには僕らの求めるものが、何もないからだということが、分って来たからですよ。力の延びてしまった横綱の負けてばかりいる角力を見ているみたいなもので、化粧廻だけ見ている分には、のどかな気分で、気骨が折れないからな。」
 ぶつりぶつりと切りまくってゆくような矢代の云い方は、ただ乱暴なというより、捨身のような快感に自分を晒し出したい切なさがあったが、事実矢代はこういうと同時に、自分の言葉の強さに随って幾らか安らかになるのだった。
「ここは人
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