野蛮さとはおよそ違った感情の美を愛する蛮人だと思った。矢代は自分の仕事の歴史の著述を進める上にも、一度この違いを突きつめてみてから根拠をそこに置き、人間の生活の発展に連絡をつけねばならぬと考えるのであった。このような考えが日に深まるにつれ、彼はいよいよパリをひとり放れてゆく決心もついて来たが、千鶴子という一個人にふと想いが捉われると、頭の中に描かれてゆく人間の歴史も停頓する微妙さに、これはただの冗談ではすまされぬ人間の基本の苦しさだと苦笑し、あきらめ、また味いつつ、さらにこの思い切り難い心の切なさから、欲深く思想の本体さえ掴みしめたいとも思うのだった。
ある日、ドームで千鶴子と矢代がショコラを飲んでいると、丁度二人の前で、黒人の女と白人の男がしきりに何事か睦まじそうに話し込んでいたことがあった。
矢代は見ているうちに、どうしても一致することの出来ない人種の見本を眼のあたり見ている思いに突き落され、その二人の間の明白な隙間に、絶望に似た空しい断層を感じて涙がにじみ上って来た。こんなことにどうして涙が出るのだろう。これは自分もよほど神経衰弱が嵩じているのだなと思い、なおもじっと二人を見
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