と仰言るの。」
 矢代はそこまで聞くと千鶴子のいうこともようやく頭に這入って来た。
「じゃ、あなたもいろいろ鮭のことを質問するんですか。」
「いやだわ。あたしはただ、サロンで踊りのお相手したり、向うの秘書官とお茶を飲んだりしてればいいのよ。その間に塩野さんたち、だいたいの向うの意向を探るんでしょう。」
 こう云う話を聞くと、矢代は手近に今までいた千鶴子も、遠く距離を放して生活している婦人のように見えて困るのであった。
「それじゃ、なかなか面白いことも多いでしょうね。」
「ええ、たまには、ありましてよ。この間も一度、ピエールっていうフランスの若い書記官があたしの手に接吻するんですの。あたしまごまごしちまったわ。」
 千鶴子は手の甲を一寸拭くように撫でてみてからまた云った。
「でも、パリの上流のお嬢さんにはあたし感心しましてよ。日本とはよほど違うと思ったわ。十八で難かしい哲学の本を読んでいて、男の人たちに質問して来るんですの。あのブロウニュへ行く道の、アベニュ・フォッシュにある家よ。下のホールが銀座の資生堂ほどもあって、別室にマキシムのコックが来ているんですの。あたしたちそこでお料理やお茶
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