侯爵夫人と話していた。久慈は時を刻むように隠顕する千鶴子の靨を見ながら、矢代をまだ知らぬころの千鶴子と、ペナンの沖に灯を連ねて碇泊していた自分の船へ、飛沫を浴びて帰ったときの彼女の靨を思い出した。また、アデンの崩れた城壁の下の、焦げ石の間で、ジャスミンの花を見つけて香を嗅いだときの靨、沈んで行く太陽にむかって、スエズから真一文字に引かれた沙漠の中の道を、疾走する風に吹かれて振り向いた靨、渦巻く迅い海流の水面に初めて顕われて来たシシリイの古都を、二人で展望したときの靨など、――それら数数の千鶴子の靨は、みな久慈のみ知っており矢代の知らぬものだった。
「さア、南京まで攻め込むつもりかな。それとも上海に百哩半径の円を描いて休戦するか。」
 と、大石とそんな話をしている矢代の周囲では、塩野と速水とが、中国へ送り込む各国の武器会社の模様を語っていた。田辺侯爵は最近手に入れた陶器が得意な品と見えて、平尾男爵ににこにこした笑顔で、
「実は今夜は、君にそれを一つと思ってね。」
 田辺侯爵のそう云い終らぬうちに、平尾男爵はそれには返事をせず、いきなりぐっと後ろの遊部の肩をこちらに廻した。
「おい、買い込
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