訝しげな頬笑みを戸外にあげまた久慈を見上げる真紀子の迅い表情が、過去の谷間をくぐる風のように複雑な美しい閃めきを見せていた。
「とりとめのない話だったが、東野さんと一緒にあなたが帰ったことを云ったら、安心したらしくってね、それや良かったって、ひと言だ。――僕はドームでお茶を飲んで別れたが。――」
「あの人、あなたの所へ伺っただけでも、大出来だわ。丈夫でした。」
久慈は頷いて、そして、真紀子に報告すべき早坂のことについて、まだ何か残っていないかと一応考えた。早坂から冷淡な憂き目にあい、それに同情した自分の腕の中へ、ウィーンから漂って来た真紀子を、また東野へ送り届けた過ぎた日の、さざめくような迅速な時の割れ目から、久慈は乱れ崩れて来るマロニエの花の色彩もともに噴きのぼって来るのだった。
しかし、自分は真紀子を果して愛していたのだろうか。――愛していたのは、むしろ千鶴子の方だったと彼は思った。それも、そんなことに初めは気附かずに、次第に真紀子が彼に近づいて来れば来るほど、鮮明に矢代の方へ傾いて行く千鶴子を眺め、彼は失ってゆくもののさみしさを味った。そして、間もなく彼は、真紀子も千鶴子も
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