、空というものの美しさが初めて分って来たのだよ。人生五十年、空の美しさだけがやっと分った、後は空空漠漠、――」
「今夜の日比谷の講演は、それをやりなさいよ。」と久慈は途中で東野に云った。
「いや、まだ考えちゃいない。それより、僕は君に賞めてもらいたいことがあるんだよ。僕は君から預って来たものを、破損もせずちゃんと日本まで持って帰って来たんだからね。君はそんなもの、もう忘れたというかもしれないが、それは僕の知ったことじゃないさ。しかし、君との約束を重んじたことだけは、忘れないでくれたまえ、それでいいだろう。人生で必要なものはそれだけだ。」
 ここに集っているものの中で、夫婦別れをしたものは、久慈と真紀子とだけではなかった。遊部と藤尾みち子も前には夫婦だった。千鶴子と矢代もこれから式を上げようとしている間であり、塩野や佐佐も同様に進んでいたが、妻を亡くしたものは東野一人だったので、このときの東野の感想は、一同の頭に冷水を浴びせたような刺戟があった。
「待てよ。僕も女房に死なれた後のことは、まだ考えてみたことはなかったなア。」
 と平尾男爵はしばらく遅れて云ってから、箸を持ったまま天井を仰い
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