子は、ちょっと詰った表情で肩を竦めてから、嬌態を整え直すと意外に緊った生真面目な顔で、
「お帰りなさい。」と久慈に云った。
「やア、しばらく。」
 久慈も別に不愉快そうでもなかった。開いた眉の間で二人が何か一言ものいいかけたそのとき、突然拍手が部屋の一隅から起った。すると、つづいて起った拍手に部屋はどよめき立った。突き崩された二人は見合せた顔の遣り場もなく、真紀子はすぐ自分の席へ逃げ戻った。料理が出て来た。銚子を配るもの、皿を並べるもの、大鉢を擁えたもの、それらのごたごたと立ち動く気分に巻き込められた一端から、世話役の塩野は久慈と大石の無事帰朝を慶ぶ歓迎の挨拶をのべた。祝杯があがると寛いだ歓談が始まった。
 渋色に塗った低めの長い食卓には、鉢から移された前菜の、生海胆、琵琶湖産の源五郎鮒の卵巣、日向産の生椎茸の油煮、熊の掌の煮付に添えたひじき、鴨のロース、仙台産の味噌で包んだ京の人蔘、など、これらが織部の小皿に並んでいる。手釣りの黒鯛を沖で叩いて締めた刺身、つづいて丸い伊豆石を敷いた大鉢の中には鮎が見えた。しかし、一同の客たちには、これらの懐石料理は一向に興味をそそらないようだった。談
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