僕はただ石の数だと思ってシャッタを切ったね。」
 塩野の無造作にそういうのを矢代は面白いと思って笑った。
「それでいいんでしょう。とにかく、夢を無くした数学が、逆に一番夢を人間に与えるようなものじゃないでしょうか。」
 と、越尾は、浅黒い顔にも美術史に捉われぬ、含蓄のある微笑を洩して塩野を見た。
「これで日本人にも、ああいう石から出て来た数学の伝統といった風なものは、あるんだろうね。それでなければ、これだけの都が、千年も仏教に苦しんだ意味がないよ。ただの石じゃね。」由吉は真顔を大きく上げて一寸矢代の方を見ると、急に、「あ、そうそう、この話はこの先生に聞いたんだが。」と云って槙三の方を照れた顎でさし、「何んとかいう数学者だったなあれは、クロネッカァといったっけ、この人の数学に、青春の夢という名高い定理があるんだそうだ。何んでもそれは、眠っているとき夢の中で考えついた定理で、起きてから、も一度その定理を証明しようと思ったところが、どうしても出来ないんだそうだ。夢の中で完全に出来たものが、起きて出来ないなんて口惜しいもんだから、今度は弟子の優秀なのを皆集めてやらしてみても、誰にも出来ないんだ
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