くは覚えないものだったが、それも支え押そうとする気力をなおつづける頑固ささえ覚えて彼は下へ沈んでいった。階下へ降りてまた地下の食堂へ行く間も、矢代は自分の感情を秘めかくす気苦労と一緒に、邪心をなくする道の踏み場を、苦しく石階の一歩ごとに感じ探そうとするのだった。
「やア、顕れたぞ。」
 食堂では、槙三、由吉、佐佐の三人に混ったテーブルの白布の上から、塩野の明るく伸び開いた地蔵眉が快活に、矢代に向って手を上げた。誰もみな疲労の色が顔に出ていたが、彼の留守の間に京都から得た収穫の豊かさを語っている共通の笑顔で、その中に席につく自分の色だけ孤独に沈みかかるのが、まだ彼には重くいびつな感じだった。塩野は目立つ白い歯で矢代の不在をしきりに残念がった。
「いや、君、イタリア・ルネッサンスに劣らない見事な片鱗があるね。ばらばら散ってるんだよ京都は――」と塩野は云った。
「片鱗どころじゃないよ。ずらりと並んだ体系さ。」と佐佐は不平そうに笑った。
「仏閣庭園はさることながら、祇園と島原、僕は、あんなところは世界にないと思ったね。一力、すみ屋なんて、醤油で煮しめたみたいな艶が、底光りにびかびかしてるよ。」
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