を選ばねばならぬときに似た、張りつめた先端にいるようだった。彼は他人の誰にとってもそうではないことが、自分ひとりにとって、なおざりにしがたい傷創になろうとしているこの旅行の行程に、喜ばれぬ無意味ささえ覚えたが、とにかく、いまは何より先ず湯に入ってから夕食まで眠ることにして、隣室の千鶴子たち誰にも到着を報せずに寝た。疲れが烈しく眠れそうにないのも、やはり幾らかは眠っていたと見えて、一時間あまりしてから彼はドアの開く音に眼を醒した。暗くなっている部屋の中にうす白く動く姿を認めたとき、朧ろながらも千鶴子だと彼はすぐ思った。眠けのとれない眼が、寝台の傍に立っている胴のあたりを見たまま、早くもひび割れてゆくように和らぎ通うものを感じて来るのだった。
「もう幾時ごろですか。」と出しぬけに矢代は訊ねた。
「お帰りなさい。」
 びっくりしたらしく、急にスイッチを入れる音がして、つづいて壁際から振り返った千鶴子の笑顔が泛き上った。
「お食事ですの。皆さん下でお待ちでしてよ。いかが。」
 しばらく見なかったのが不思議なように思われる、間近い笑顔で、薄化粧の匂うあたりに沁み崩れてくるふくらぎを感じ、矢代は、
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