もの、それは必ずこの地上にはあると彼は思い、盛衰興亡とは廻された番の勤めのことだと感じて、彼は、栄え実った田辺家の盛んな姿に恵まれた幸運の徳を賞めたたえたくなるのだった。


 午後の三時ごろ矢代は京都ホテルへ着いた。彼はすぐ千鶴子の部屋を尋ねようかと思い、一ぷく煙草を喫い終るまで椅子から動かなかった。まだ耳底から汽車の動の鳴りやまぬ体をそうしてみていて、すぐ千鶴子に会わねばいられぬものかどうか、彼はしばらく自分を沈めていたかった。
 屋根瓦ばかり並んだ窓の外で、本能寺の樹木の方へ乱れ飛ぶ雀の羽が光って見える。乾いた空の色だった。彼はいつ結婚しても良い自分ら二人の身の上になっているこの際、今夜ここで泊ればそれも早や定ることだと思った。結婚を延ばすか否かは、まったく自分の一存で決定出来る今の場合、まだ車中の妄想に動かされているのは、愚かなこと以上実は無責任も甚だしい行為というべきだった。
 矢代はしかし、心のおもむくからには行くまで自然に行かしめよとも思った。今のような不安定な気持ちは、も早や愛情のあるや否やなどといった感傷事ではなかった。自分か千鶴子のどちらか一人死に生きする、その一つ
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