れたのに、そんなみずくさいこと申されて――」
「お蔭で都合よく用事もすませてもらいましたし、それに時間もどうやら間に合いますので。」
 車夫を待たせた気忙しさに寺への謝礼と、村人たちへの礼心を白紙に包む多忙なためもあって、矢代は調子の合わぬまごまごした挨拶をなおするのだった。
「御先祖さんのおられるところで、一晩もお泊りなさらんのですかのう。」
 黙っている老人連の中からまだ老婆だけは心外の意を露わに向けたてかけて来たが、好意を毒舌にして見せる手際も温く、矢代は、答えかねた窮地の底から、ひそかに門の前の車夫に援助を需む有様だった。そして、ようやく、老人たちに背を向けスーツを引きよせると、まだ何か云いかける老婆の方へ向き返って、
「今度はまア、お赦しを願います、この次は家内をつれて来ますから、そのときはゆっくりお礼に上ります。」
 と云って笑った。門前まで皆に送られた所で、車に乗ってから、矢代は梶棒の上るまで焔の中から救い上げてくれる手を見るように車夫の動作が待ち遠しく思われた。間もなく車が走り出した。そして、一同を後にひとり山を見上げたとき、彼は初めて、やはりここでも自分は終始旅の客だ
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