沁み込まれた皹《あかぎれ》やひびが眼についた。実際、彼の家も何かと絶えず闘っていた様子ながらも、蔵や母屋の膝から上は、まだ健康そうな色艶を失っていなかった。父より永く生き、子の矢代より長命しそうな巌乗な肩には、その後も引き受けてくれそうな緊った木理の眼さえ彼は感じた。
 坂を登りつめた上は、家の中庭になっていた。矢代は父の骨を胸の方に廻し替えて、竃の光った間口の方へ向け中庭を通っていった。近づいた家の間口が拡がるように見え、そして、中から我さきにと這い出て来る薄暗みの気配を彼は眼で制しながら、
「黙って、黙って。」
 と、何ぜだかそう云いたくなった。半ば閉った蚕室の雨戸に日が射していて、桐の花が高い梢の頂きで孤独な少い筒を立てていた。明るい空に沁み入りそうな淡い紫の弁をふと見上げたとき、思わず彼は悲しさが胸に溢れて涙が出て来た。
 中庭を脱けた裏から栗の木の多い山路にかかった。嫩葉色の顔にちらつく登り路を暫く行くと、右手に一部平坦な部分が見えて、そこに大小百基あまりより塊った墓があった。
「ここのお墓は、これ皆あなたさんところのばかりですよ。」
 と、先頭に停った老人が矢代に告げた。他
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