今も彼は思い出したりした。しかし、千鶴子の恐れているものも、この松風の音にひそんだ年月の声のようなものだろう。そして、遠くあのヨーロッパから押しうつって来たカソリックの波路も、この城を滅ぼし落したその筒口も、すべては今そこに見える日の射した海の色の上に浮んで来たものであろう。
枝に吊った骨箱の白布が、黒松に浸み入った山気をひとり吸いとって寂然と静かなのが、見ている矢代の眼に痛く刺さって来た。彼はまたそのあたりを歩いてみた。石垣の隙から蜥蝪が一疋逃げ出すと、それも意味ありげで彼は立ち停って眺めた。
山路を下る矢代の足首に草の実が附着して来た。灌木の葉越しに見えた海も消え代りにまばらな人家の障子が浮き出て来た。はっきりした鮮かさで、山影の薄日を吸った純白なその障子の糊あとを芯に、平行して来る田畑の線は見事だった。垂直に立ち揃った森の幹が、磨き減った胴緊りに細まり、何事か祈りのこもったような谷間の中の路である。
矢代は苗の鋭く伸びた明晰な山峡のその路を、父の骨箱をさげ辿って行くうち寺へ着いた。二十数年にもなろうか、この寺の門は彼の見覚えのあるものだった。甍もゆるんだ傾きで、風雨に洗
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