なものであった。しかし、それもこれも、今は仲人の東野の気苦労な裁量で、定ったと同様な状態になってしまっていた。
草津の駅を越したころ矢代はもう眼を醒した。すぐ石山にかかると、湖の上に曙色がさして来て、比叡の頂が薄靄の中に染って見えた。彼は洗面を急いですませてからまた寝台に戻り、人に見られぬようにカーテンを締め降ろして、スーツから父の骨を出した。大津の街は湖に包まれ夜明けの白い湯気を立てていた。矢代は半身を起したまま、白布の骨箱の一つを両手に捧げるようにした。湖の色が山際に傾きよったと見るまに、流れ込む水のように轟きをたてて、車窓は逢坂山のトンネルに入っていった。矢代は臭気の籠った煙のまい込む生温さに、のしかかって来ている山梁の部厚さを覚えた。またそれが、父の骨骼のようにも感じられると、骨箱の角を握る手も、ぽッと明りの点いた一点の音を捧げているようだった。
父の微笑していた顔があたりの闇の中に大きく浮んだ。それは額縁の中の父のようでもあれば、夢に見た動かぬ父の顔にも似ていた。駈け通って行く車内の流れが、ここだけは父のその顔を中心にいま風を切っているのだった。矢代は白布に押しつまって来
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