論でも聞いて、生活しているんだと思いなさいよ。」
「いやよ、もう議論は。あたし、そしたら、フロウレンスかチロルへ行っちまってよ。」
「そうだチロルへ行こうか。」
と久慈は急に大きな声を出した。「さっき聞いていたら、僕らの傍にいた日本人の連中がギリシアへ行く相談をしていたようだから、僕らもどっかへ行こうじゃないか。チロルへ行ってヨーロッパ第一の景色を見ながら議論をするのも、また格別だぞ。」
「石川五右衛門ね。」
千鶴子の笑っているうちに甘酸い花の匂いの満ちたフォッシュ通りを突き切り、一同はブロウニュの森の口まで来かかった。
「僕の友人は日本を出るとき面白いことを云いましたよ。君がパリへ行ったら何も勉強せずに、ただ遊べと云ったが、遊ぶというのも全く骨の折れるもんですね。」
こういう東野に久慈は、
「それや、そうだ。仕事をする方がどんなに楽か知れないや。」と賛成した。
森の直立した樹間から早くも湖面の一端が桃色に光った生物のように見えて来た。
自動車を捨てた一同は湖の方へ歩くと、一見|榧《かや》の樹かと見まがう松の間を通り、ボートに乗った。久慈と矢代はオールを持って東野が艫に坐り、
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