の夜はブロウニュの森の湖水へ行こうという久慈の提案が直ちに通った。一つはもうすぐ、新しく来た日本人の案内役となって地方へ旅に出るというアンリエットとの、皆の別れの意味もあった。
「どうです。これからボアへ行こうというのですが、いらっしゃいませんか。」
 久慈は例の人の良さそうな笑顔で傍にいる東野をも誘った。四人はすぐ自動車を森へ向って走らせた。自動車の中で千鶴子は、
「今夜だけはもう議論はなさらないでね。」
 と皆に頼んだ。皆は声を合せて笑った。
「フランス人は女の人が一人混っていると、絶対に議論はしないが、あれは女というものは馬鹿な者だと定めているからだそうですよ。僕らはあなたがいても議論をするのは、つまり尊敬しているからさ。」
 と久慈は振り返り千鶴子を見て笑った。
「でも、こんないい夜は、頭の痛くなるのいやよ。」
「しかし、こんなに毎日遊んでばかりいると、議論でもしなくちゃ仕事をしたという気がしなくなるんだからね。」
 久慈のそう云うのに矢代は、
「僕らはここにいると、誰も生活がないんだからね。血の出るような生活といえば、議論をする以外に求めようがないんだから、まあ千鶴子さんも議
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